第5章 咄咄怪事【トツトツカイジ】
「名って言って良いのか分かんねーけど、
俺達はそいつを十参號(じゅうさんごう)って呼んでた。」
十参號………
そんな物、名とは言えない。
只の符牒だ。
「何故?
それではまるで家畜ではないか。」
怒りを孕んだ俺の言葉に、男は態とらしく悲し気な表情を作ってうんうんと頷いた。
「やっぱりあんたもそう思う?
そーだよね。酷いよねー。」
そしてまた不気味さを漂わせる無機質な眼差しが俺を捉えた。
「けど……家畜みたいなもんでしょ?
俺達の存在なんて…。」
「先程から聞いておれば貴様は『俺達』『俺達』と…。
では、も貴様と同じ『三ツ者』であったと言うのか?」
男は顔の前で両手を叩いて小さく鳴らすと
「はい。御名答ー。
で、あった…じゃなくて今でもそう!」
にっこりと無邪気な笑顔を見せる。
そして徐にすくと立ち上がり、今度は蛇の様な視線で褥の中のをねっとりと見下ろし……告げた。
「そいつ……俺の、なんだよね。」
「貴様の……?」
どういった意味に捉えて良いのか…俺が考え倦ねる様を見て男は踵を返すと腰窓の桟に座り、開いた膝の間でゆるりと両手を組み合わせた。
そして何かを諦めた様な儚い笑みを浮かべる。
「ここから長くなる。
黙って最後まで聞いてくれ。」