第5章 咄咄怪事【トツトツカイジ】
だがその夜は『何か』が違った。
深く眠っていた筈の俺の神経が『何か』を敏感に感じ取っている。
いや………違う。
それは『誰か』だ。
俺はゆっくりと身を起こし、低い声で問い掛ける。
「…何の用だ?」
暗闇の中からくつくつと喉を鳴らす音が響く。
「流石だなぁ……織田信長。」
その声の主は躊躇無く俺に近付き、月明かりの下へ自らの姿を晒け出した。
「誰だ、貴様は?」
「誰?
誰って…こんな夜更けに忍び込んで来てるんだ。
曲者以外の何でも無いだろーよ。」
忍び装束の若い男。
どうしてか、顔を隠してはいない。
月明かりに照らされたその端正な顔立ちに目が奪われる。
しかしその表情に敵意は無く、人懐さが滲み出ていた。
「善くぞ安土城天主まで来られたものだ。
褒めてやる。」
「ん…ああ、そりゃどーも。」
男は軽口を叩き、ふっと微笑んでから軽く頭を下げて見せた。
そして……
「確かに守備は強固だったけどね。
だけど『三ツ者』の俺には難しい事じゃ無いさ。」