第5章 咄咄怪事【トツトツカイジ】
あの嵐の夜以来、毎晩は俺と眠る様になった。
日中は城内で燥ぎ回ったり、庭園を散策したり好き勝手しているが夜になると天主へやって来る。
初めはそんなをおろおろと見守っていた秀吉も、最近では逆にが俺の側に居る事で安堵している様だ。
そして俺もと褥を共にすると、何故か良く眠れる様になった。
これまでは眠ったとしても心身共に大して安まると感じた事は無かったが、を抱えて取る睡眠は深く俺を癒やしてくれた。
高がこれだけの事ではあるが、それが何よりも貴重な物の様な気がして俺は既にを手放し難くなっている。
その夜もは天主で一頻り遊んだ後、いつもの様に褥に座り込んだ。
だが今夜の俺はここ数日で溜まった書簡の処理に追われて当分褥には入れそうも無い。
ふとに目を向けて見れば、如何にも眠そうにくしゅくしゅと両手で顔を擦って居る。
「、眠いのであれば先に寝ろ。
俺を気遣う必要は無い。」
そう声を掛けた俺を見つめて『眠くなど無い』と言わんばかりの顔をしたは小さく首を横に振った。
「ふん……強情な娘だ。」
苦笑を漏らして俺は書簡に目を戻す。
一通り目を通し目途が立った所で再びを見やれば、座ったままこくりこくりと舟を漕いでいた。
「……仕方在るまい。」
この書簡の山を明日には秀吉に渡さねばならぬのだがな。
しかし、に無理をさせない為であったと言えば秀吉の小言もかなり緩くなるであろう。
俺は立ち上がり、の身体を横たわらせて自らも褥に入れば、直ぐに心地の好い睡魔が襲って来る。
……やはり貴様は手放し難い女だ。