第1章 帰って来た従兄弟
「そうだ、宇菜。大和くんと出掛けてきたらどう?十年前に比べると駅前とか変わってるし、案内してあげたら?」
突然の明子の提案に宇菜は目を見開く
時間をかけて距離を詰めようと決意した矢先、まさかこんなことになるとは
「えっ、で、でも。そんな急に、大和くんも困るよねぇ?」
少し声が裏返ってしまったが、誰も気にしている様子はない
それどころか、宇菜の顔がひきつってることすら気づかれていない
そんな中、初めて大和が口を開く
「そうだね。僕は行きたいな」
「えっ?」
「でしょう!ほら宇菜、すぐに準備してきなさい」
まさかの大和の言葉に固まっていると、すぐに明子に背中を押される
食後のゆったりとした時間はすぐに終わりを迎えてしまった
こんな状況になっては断れない
宇菜はカバンを取りに行くため再び部屋へ戻る
するとクローゼットを開けたところで声がかかった
「宇菜ちゃん」
驚いて振り向けば、そこには大和の姿があった
まさか追いかけてきてるとは思わず驚いてしまう
それに…
「や、大和くん?」
「なに、宇菜ちゃん」
それに、そんな色っぽい声だったろうか
ただ名前を呼ばれただけなのに心臓をわしづかみにされたような苦しさに襲われた