第1章 rain of caress
「出ないと・・・ずっと鳴って・・、・・・っ、ナッシュ・・」
「チッ・・。ハァ・・・・、クソが。・・まあ出た方が早いか・・・声は出すなよ?・・・―――オレだ。なんの用だ?今日はもう・・――」
「・・・・・・」
ぬめりとした感触が首筋に走り、ナッシュの舌が名無しのそこを這う。
名無しはぴくんと震えその舌触りに感じたけれど、どうしても鳴り続ける携帯が気になってしょうがなかった。
覚えていたのは、予想が当たっているならば、ナッシュが出るまでその電話は鳴りっぱなしであり続けるということ。
ただの着信、振動音など放っておけばよいものの、そんな状況でセックスに没頭出来るわけが名無しにはなかったのだ。
もっとも、それは没頭したくなるようなナッシュからの愛撫や行為そのものを待ち望んでしまっていることに繋がってしまうわけだけれど。
名無しはベッドに寝かされてから既に、早く彼にめちゃくちゃにされたいと、根底では考えていた。
そんな想いを抱くようになってしまったのもまたナッシュの所為だ。
無心で肌を重ね、彼のことを思い夢中になっていたいなど・・・。
「今?部屋にいるぜ・・・そうだ・・、たまにはゆっくりさせろよ・・・」
「!・・・・」
名無しはナッシュに珍しく強いり、その電話に出ることを切に願った。
話しているあいだにも鳴り続ける携帯のあったベッドの傍のボード上、漸く本人が腕を伸ばし手にすると、ナッシュは画面を見て大きくため息と舌打ちを零した。
その表情を見た瞬間に名無しは発信主にやはりかと確信を持ち、彼の開口一番、面倒がった低い声を耳にしながら、ほんの少し胸を痛めつつも可笑しさを感じた。
何となく、彼が今この時間を大切にしてくれているような・・・そんな気がしたのだ。
それはまた抱く自惚れや、そうであればいいなという願望に過ぎないのかもしれない。
けれど名無し自身、気持ちに変化があったのもまた事実だった。
ナッシュと接するようになって、着実に心境は出会った当初と違えていた。