第1章 rain of caress
「ん・・・っ」
押し倒された寝具の上。
ドサッ、と、いかにも寝かされたと言わんばかりにシーツと衣服の擦れる音が耳に入り、枕にもゆっくり頭が馴染む。
ナッシュの前髪が頬に触れ、彼の唇が名無しのそれを奪うと、じわじわと口腔にも舌を割り込まされる。
「は、ぁ・・・待って・・・ナッシュ・・ん、・・・!・・」
「ん・・・・、・・・」
広いベッドの上では溺れる運命でしかない。
そこで縋り付けるのはナッシュの身体だけ。
彼の毒に侵されている身も心も、名無しにはもう、なかったことには出来なかった。
到底忘れられそうもない、それ程、頭の中にはナッシュから注がれた数多の快感が刻まれていた。
今だって例外ではなかったから、弱弱しく両手を押し出し、拒む仕草だけは一丁前に演じてみせるけれど。
「はぁ・・、ぁ・・・っ」
両足の間に片膝を忍び込ませ、ナッシュは名無しの下腹部をぐりぐりと圧迫した。
下着、そしてスカートの上からでも齎された間接的な弄りは、嫌がっていた筈の彼女の表情を、ゆっくりと艶めかしいものに変貌させる。
常套手段のひとつを容易にこなし、自らの唇に乗った名無しの唾液を舐めとる仕草もまた、ナッシュが彼女によく見せる所作だった。
「ナッシュ・・・?・・ね・・・待・・っ」
ナッシュの部屋には、瞬く間にしっとりとした空気が漂う。
そうして耳朶を啄ばまれ、甘い痛みが走った瞬間だった。
ふと聞こえたのは、唾液が弾ける水音以外に携帯の振動音だ。
ああ、この小さな機械にはいつも邪魔をされる・・・そう脳裏で考えながら、名無しは鳴った携帯がナッシュのものであることを静かに本人に訴え、やむなく行為の中断を促そうとした。
携帯はしつこく震え続けており、その振動の長さゆえに、あまりに長い通知だか着信だかには、意外にも名無しには検討がついていたのだ。
いつもベッドの中で話すことは、記憶が曖昧でもそれなりにあった。
だからそのうちのひとつにあてはまる、ナッシュが出るまで彼の携帯を延々と鳴らし続ける相手が一人、女を除いて居るということを――。