第1章 rain of caress
「おいおい・・・ちょっと待て。聞く相手が違うんじゃねえのか?」
電話に出たナッシュは体勢を変え、自身は起き上がってベッドに座り、ヘッドボードに背をもたれさせた。
横になり続ける名無しに対し、真隣に居る格好だ。
脱ぎかけの服に解かれていたベルトの金具、名無しが彼の下半身に目をやると、下ろされていたジッパーの隙間からは暗色のボクサーが覗いていた。
立てた片膝に置かれた手、もう片方のそれは当然耳に宛がわれている。
今度は視線を上げて見つめたナッシュの横顔は、不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、けれど伏せた瞳から伸びる睫毛がとても魅力に思え、名無しは胸元をきゅっと疼かせた。
携帯からはその元々の音量ゆえか、多少響きはするものの、相手の声が名無しにもよく聞こえていた。
「ぁあ?バカかおまえ・・・オレのところにあるわけねえだろ・・・・あいつらには聞いたのか?ああ・・・、ああ・・そうだ。どっちかが持ってる筈だ・・・この前話してたぜ」
「・・・・・!・・・え・・、・・?!んんっ・・」
「あ?気のせいだろう・・・オレ一人だ。・・・・ああ?知らねえよ・・」
「ッ・・・む、・・・っぐ・・んん・・んっ」
相手が相手だけに。
電話に対し、ナッシュが面倒に思うのも無理はなかった。
顔色はますます宜しくなくなり、苛立っているのがよく分かる。
ただそんな中名無しが嬉々としたのは、ナッシュが今、自分は一人だと相手に伝えていたことだ。
相変わらずどんな状況でも、彼は絶対に他者に自分のことを明かそうとはしない・・・特に、チームメイトには。
名無しは、それがどうしても心嬉しかった。