第1章 甘く香る(赤司)
開演中は撮影の一切を禁止する規則を徹底し、モデルとしての彼を守ると約束して了承した黄瀬はのびのびと練習に取り組んでいる。
バスケ部に所属している彼の練習時間は他より少ない、というのも部活動に熱心な黄瀬が最優先しているのがバスケットボールだったからであり、私を含めたクラスメイトも知ってのことなので本格的に文化祭準備期間に入り部活動休止期間となるまでは演劇練習よりも部活動の時間を多く割いていた。
これも主演を引き受ける際の条件だったわけだが、今やどちらも楽しげにこなす姿につい頬が緩む。
演劇は役者が揃えば叶うものでもなく、裏方は必須。
目立つことが好きではない私は率先して裏方を希望した。
主演が主演なので役者を望む声は多かったため、私の第一希望は問題なく通り安心している。
練習を続けるクラスメイトを横目に打ち合わせが行われる毎日を繰り返しては改良を重ねていった。
その度、当日が楽しみになっていくのだ。毎日が充実していた。
そうして見事希望枠を勝ち取った裏方の私が台本を読み込む必要性はあまりない。
照明だの音響だの、担当によっては必要かもしれないが私が割り当てられた役割には不要だった。
しかしクラス全員に配布された台本を確認のため読み進めていけば、元ネタを読みたくなってしまって図書室へと向かう。
公演時間は長くない。
それに合わせて脚本を作らなければならないのだから、選んだ演目の概要を流した内容になってしまうのも仕方のない話で、つまりは端折られた部分を読みたくなってしまったのだ。
集客の大半を占めるであろう女性の心を掴める、それでいて誰しもが知っている作品といったチョイスにしたため私も知っているけれど、舞台を観に行ったことがなければ本を読んだ記憶も遠い。
まったく読んだ経験がないとは言わないが、読み込んだことはなかった。