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【黒バス】短編

第1章 甘く香る(赤司)


 これ以上は勘弁してほしかった。本当に動けなくなる。
繰り返していた瞬きを途端に止めて見詰めた私の額を軽く小突いた赤司は笑みを仕舞うことなく覗いてきた。
唐突な行為に肩を震わせる。
最早何が何だか分からなくなって現状把握など不可能となっている私の心情を見抜いているかのように、子供に言い聞かせるみたいな優しい声音を注ぎながら気付けば止めていた足を再開させ帰路へと戻した。

「答え合わせは、また今度だな」

 なんなのよ。一人ごちるよう呟いて、先に歩き出した赤司の隣に私も並び直すべく小走りで駆け寄る。
気持ち的には距離を少し空けたかったが、隣でなければ負ける気がした。
何に敗北しそうなのかは自分でも分かっていない。
策士な彼に少しでも対抗したかったのかもしれなかった。

 熱を持った頬は有る程度動けるようになってからも火照ったまま私の中で燻り続ける。
悲劇で有名なロミオとジュリエットが、私の中で悲劇ではなくなった瞬間だった。
切なさを愛しさに変換されたおかげで明日からまともに劇の練習を見れそうにない、なんて心中を口外するわけにはいかない。
言えばこの瞬間から既に紅い色が心を占領しているのだと、ばれてしまうだろう。

 答え合わせは何時になることか。
今日が唐突に訪れたように、その日も突然やってくるに違いない。
狡いとは思う。けれど嫌いではないと口許に小さく笑みを乗せて隣の紅を見上げた帰り道の話。
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