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【黒バス】短編

第1章 甘く香る(赤司)


 これを気に一度読んでみようと好奇心が働き、向かった図書室で借りてきた原本訳を部室で捲っていく。
そのまま図書室で読んでも構いはしなかったが、部室の方が今の時間は人が少ない。
バスケ部のマネージャーである私も入る資格を持っていて、且つ静かな場所となれば図書室よりも部室の方が断然良かった。
何せ文化祭の準備に追われている生徒たちで校内は賑わっている。
部室が位置している別棟しか静かな場所はないと考えて良いだろう。
賑やかな場所を嫌っているわけでもないけれど、読書をする時はやはり一人静かに読みたいものではないか。

 文化祭に校内が染まってきているとはいえ、未だ部活動休止期間には入っていない。
そのため部活動に参加している部員は勿論いる。
だからこそ部活終了時間を見計らって部室へとやってきた私は、目論み通りに静かな場所を手に入れた。
レギュラー陣はきっと今も練習を続けているのかもしれないが、更衣室は部室と別にある。
荷物も更衣室のロッカーにあるはずなので、主にミーティングで使用される部室にやってくる人物は部長一人しか思い付かなかった。
それまでは優雅に読書タイムと洒落込める。
文化祭の準備時間を設けるため、特別に最終下校時間が少し伸ばされているこの時期だ。
ゆっくりと本の世界へと足を下ろせるはずだろう。

 遅くまで練習に明け暮れる主将の彼が部室へとやってきたら自分も帰ろうと決めて、借りてきた分厚い本を捲っていく。
指が紙を撫でていく音に耳を傾けて文字を追うだけの空間は、まるで別世界に誘われた特別なもののように思えて没頭した。
時間を忘れて、自分のいる場所さえも忘れて完全に本の世界へと旅立っていた私を現実に引き戻したのは、割り込んできたドアノブを回す音。帰宅の目安にしていた彼の登場だった。
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