第1章 甘く香る(赤司)
まさか。直ぐに掻き消して可能性を消去する。
ただでさえ共感部分に驚愕しているのに、これ以上予想外な真実を突き付けられては赤司という人間を改めなければならない。
その時は少なからず交流があるにも関わらず、勝手なイメージで人物像を作り上げて申し訳なかったと声にして謝らせていただく。
取り敢えずと放った声は驚きのあまり少しばかりどもってしまったので、もしかしたら私の脳内なんてばれているかもしれないけれど。
くすり、目が合った彼が紅い瞳を優しく緩めるので本当に脳内がばれているかもしれないと一人で勝手に思い込み目を泳がせていると、突然頬へと感じる温もり。
あちらこちらと彷徨っていた視線を紅い双眸にゆるりと戻した。
残暑の厳しい今時期は陽が暮れた後も蒸して体感温度を上昇させていく。
一際頬に熱が伝って、じわり、じんわり、浸食していく感覚に陥った。
再び合わせた視線を逸らせずに、辺りの暗闇が失せて目の前は赤一色。
彼の色に引き込まれて、惹き込まれる。
頬を一撫でする赤司の手によって与えられた温もりという熱が、時間を止めた気がした。
「君は君だということだよ、」
微笑、なんて生温いものではない。
綺麗に、穏やかに、慈しみをもって笑う。
赤司が、私に向かって確かに笑顔を見せていた。
紅が美しく世界を彩る。紅以外の色彩が目に入らない。
世界が紅で形成されていく。それは鮮やか過ぎて眩いほどの彼の色。
「どういう意味か、分かるかい?」
悪戯が成功したかのような無邪気な笑みに変えて、頬から滑らせた手を髪へと移しては撫でていく。
ただそれだけの動作に鼓動が喚き、あまりの驚きから瞠った瞳は見開いたまま動かせない。
瞬間的に渇いた唇は震えるだけで声を吐き出すことは不可能だ。