第1章 甘く香る(赤司)
赤司は名家なので、その子息ともなれば彼にしか分からない上流階級ならではの悩みが存在するのだろう。
ジュリエットはキャピュレット家の娘であり、名家の令嬢であるからして、身分の高い者同士通じるものがあったのかもしれないと思い直した。
一体どの場面で身分の共感を果たしたのか分からないが、きっと読み進めていけば納得出来るかもしれないので寝る前にも少し読み進めておこうか。
本当に彼には申し訳ないのだが、一人に固執する姿が全く以て想像付かないので身分といった線で考えた。
「薔薇と呼ばれる花は、他のどんな名前であっても同じように甘く香る」
突然の台詞に今度こそ驚愕して隣を歩く赤司を見た。
驚いたのだ、あんなにも結び付かなかった恋愛だったなんて。本当に失礼な話なのだけれど。
今の台詞は、劇中ジュリエットがロミオを想って紡ぐ、真摯でいて情熱を孕んだ気持ちが込められたものである。
ロミオが愛しい。けれど敵対している家同士、結ばれることは難しい境遇を嘆いているジュリエットの切なる感情が吐露させたのだと推測する。
彼がモンタギュー家の子息でなければと願う反面、名前に如何な意味があるというのかを語るべく薔薇に例えられた。
薔薇はどんなに異なる名前となっても香りが変わることはない。
ロミオもまた同じだと投げ掛ける名場面の名台詞をこの場で紡ぐということは、つまり赤司は恋をしているのだろうと考えられた。
まさか共感部分が恋愛事情だとは微塵も思わずすまなかったと胸中謝罪を送る。
「有名なセリフだよね」
取り敢えずは当たり障りのない返しをして、しかしと考える。
この台詞を抜粋するということは、叶わない恋をしているのだろうかと。
最愛の人との立場を憂いて言い放ったジュリエット。
これに共感するということは、もしかして難しい恋心を抱いてしまったのではないかと勘繰った。