第4章 04
真っ白なノートの上を忙しなくペンが動き回りキャンパスを描いていく。
その際生じる音がエアコンの稼働音にも負けずに室内で響いた。
これをサウンドにして黙々、延々と夢中になって白を黒で埋めていた矢先に届いた雑音で我に返る。
一心不乱に勉学の世界へ旅立っていた精神が現実へと引き戻したのは来客を知らせるインターフォンの音だった。
我に返ってみて初めて気付いた時間の経過。
強い陽射しは薄れて橙色が窓から入り込んでいる。
机の上を飾るデジタル時計で時間を確認してみると、窓の外は未だ明るいがすっかり夜と言える時間になっていたらしい。
熱心になるあまり随分と時間が経っていたようだ。
時間の過ぎる早さに一つ瞬いている間に再びインターフォンが呼ぶ。
そうだ、驚いている場合ではない。客が来ているのだった。
思い出して早急に玄関へと向かった。
階段を下りながら、ふと、しかしこの時間に誰がやってきたのかと考える。
宅配便かとも思ったが、もしそうだとしたら母は手紙であらかじめ伝えておくはずだ。
では出掛けていた母が帰ってきたのでは、とも考えたが直ぐに打ち消した。
母ならば鍵を使って勝手に入ってくるだろう。
ならば誰だ。
考えながら玄関に下り施錠を解いて来客を招き、呆然と目を見開いた。
扉を開いた其処にあるのは紅。
橙に染まり出した空に溶け込む紅い髪を持ち、同色の瞳で魅了する幼馴染みの少年。
「ただいま」
言いながら当たり前に入り込んでは靴を脱いでくる赤司に反応出来なくて見開いたままの双眸を瞬いた。
後ろ手でしっかり施錠してから上がってくるところなんかは実に彼らしいと見つめていた目を、突然のことで失った冷静さを取り戻すべく観察するために改めて向ける。
帝光と学校名が印字されたジャージを羽織って、同デザインのズボンを穿いている彼の右肩からは重そうなスポーツバッグが掛けられていた。
どうやら部活帰りにそのまま寄ったらしい。
遠いわけでもないのだから、どうせ来るのなら一度着替えてから来れば良いものを。