第2章 02
名前は兎も角、心配性なのは彼に限ってのことだった。
赤司は昔から、幼少期から私に対して心配しがちな面がある。
おかげで私には母親が二人いるかのような錯覚に襲われることもあった。
口煩い彼は今も健在なようで、夜が迫っている時間帯に一人で外出するなだとか薄着で歩くなだとか、散々言われてきた小言が今から改めて聞けるらしい雰囲気に頬が引き攣りそうになる。
いや、正しく引き攣っていただろう。
無言の訴えから始まり溜息を皮切りに寄越される小言は道すがら延々続き、冒頭へと戻る。
いい加減に飽きて聞き流していたら、聞いているのかと窘められた。
今となっては母親というより兄のようだ。
妹を心配する口煩い兄。
くすり、自分の感想に自嘲した。まるで笑えない。
彼に兄の姿を求めているわけではない。
心配されればされるほど、異性としてしか見られていないのだと思い知る。
贅沢な悩みなのだろうと思う。それでも嬉しさよりも切なさが勝った。
「はいはい、聞いてるよ」
浮かんだ笑みを喉奥に押し込んで、何でもないことのように軽く流す。
注意を聞かない私に赤司はまた一つ溜息を吐いた。
そら見たことか。聞き分けのない妹に困った兄の図そのままではないか。
「文句なら、私じゃなくてお母さんに言って。買ってこいって言ったの、お母さんなんだから」
少しでも気分を払拭しようと軽口を叩いてみる。
事実、この時間に外出する羽目になった原因は母にあるのだからお小言は勘弁してほしい。
母親が牛乳の存在を忘れていなければ私は今頃部屋で勉強に取り掛かっていた。
最高学年になったことで受験シーズンに備える必要がある分、勉強量を増やしている。
成績はそのまま私の未来へ関与するものだ。
進路を確定してはいないが、真面目に取り組んでいて損はないというのに妨げられた私は立派な被害者である。
加害者の母へ直接言ってほしい。