第2章 02
私の母親は少し抜けていると思う。
夕食の準備に取り掛かろうとして初めて材料が足りないことに気付いたらしい。
今回は牛乳を切らしていたようで、使いを頼まれた次第だ。前回は醤油だったか。
頻繁に、とは言わないが度々こうして材料の補充を頼まれる。
陽が暮れ始め空が一面の朱に染まっていく夕刻。財布を掴んで一人家を出る。
直ぐそこ、近距離にあるのでわざわざ着替えることはしない。
部屋着のラフな格好でも構いはしないだろう。
エコバッグを持つことも忘れずに一番近いスーパーマーケットへ向かった帰り道は、朱が藍へ変貌を遂げようとしていた。
牛乳を買いに行くのなら、なんておまけで付け足された材料を詰めたエコバッグはなかなか重い。
ちくしょう、一人ごちながら家路を歩けば久しい、けれど聞き慣れた声に背後から呼ばれた気がして、振り返ってみれば矢張り思った通りの声の持ち主である幼馴染み、赤司がいた。
どうして此処に、など聞かずとも部活帰りだろう。本当に久し振りの再会だった。
住まいが近い私たちの帰路は同じなので、一度遭遇すれば家に辿り着くまで空間を同じくすることになる。
片想い中な上に気持ちをなかったことにしようと画策している最中の私にはあまり好ましくない状況だが、変に避けるのもおかしいだろうし、避けることで敏い赤司が気付かないわけもないので追及を逃れるためにも隣を歩くことにした。
部活お疲れ様。
一応はと労いの声を掛けたのに幼馴染みは無言で此方を見下ろしてくる。
おかしな発言をした覚えはないのに無言で訴えてくる視線に瞬いた。
何か気に障っただろうか。しかし発した言葉は労いの一言だけで他にない。
何に対して不満を抱いたのか、それなりに付き合いがあっても見当が付かず小首を傾げる私に向かって今度は深い溜息。意味が分からない。
頭上に浮かんだクエスチョンマークが増えていく一方で、一向に答えは出なかった。