第4章 そして僕等は堕ちてゆく
【ムカつく笑顔 2】
「あっれ?ニノぉ?」
お玉片手に、エプロン姿
頭のてっぺんでチョンマゲまで作ってさ
「お前……」
「どしたの?ニノ」
「どしたのじゃねぇよ!」
「え~!?意味ワカンナイ!なんで怒ってンの?」
「あのなぁ」
「ん?……って、あーっ!」
いきなり叫びながら、
バタバタと部屋の奥に戻った雅紀の後を
「お邪魔しまっす‥‥」
俺も、ついて上がった
「ニノのせいだ」
「ナンでだよ」
「さっきまで、すっげーイイカンジだったのにさ!」
白い皿の上には、焦げた鯖が二切れ
「くっせぇ!オマエ、コレ食うの?」
「だって、今日のメインだもん。後はとうふのみそ汁とぉ」
持ってたお玉で鍋をクルクルかき回してるけど、何だよこの大鍋は
「オマエ、炊き出しでもする気か‥‥?」
「へ?ナンの話?」
「イヤ。別に」
でも‥‥なんだ?
一見、元気に見えるけど
なんでコイツがメシ作ってんの?
雅紀の横顔を盗み見しながら、
来る前から、抱いてた疑問は拭えなくて‥‥
「なぁ‥‥おばさんは?」
魚だって二切れだしさ
お前とゆうとおばさんじゃ足んないじゃん
俺の言葉に、
動かしてた手を止めて‥‥
パチンとコンロを消すと
振り返った雅紀は、
無理矢理な笑顔を見せた
「母ちゃん、入院してさぁ‥‥」
「え‥‥」
「だから、いろいろバタバタしてて」
だから、
笑わないでいいんだって
「なぁ、大丈夫なの?」
「‥‥うん。安静にしとけば大丈夫だって‥‥」
そんな、
無理して明るい声出すなよ
いたたまれなくなって、
ギュウッて‥‥胸が苦しくなる
「ね?ニノも食べてく?」
平気なフリすんなよ
喉元で言葉を詰まらせた俺に
『来てくれてありがとね』って
『食後のデザートに、
ニノが持って来たりんご、剥いてあげるね』って
雅紀はそう言って、
また‥‥笑った
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