第3章 汚ねぇ大人になるように
【まんまるおにぎり】
「具合悪いの、気付かないでごめんね。
母ちゃんにすげー怒られてさ?
バイトも休んじった」
テーブルに、風呂敷包みから出したタッパーを並べ‥‥ 雅紀はひとり喋り続ける
「熱は?顔色悪いよ?」
俺はソファーに座り、首を横に振った
「ホントに?食欲は?無理に食べてもナンだしさ?」
「食べるよ。ありがと」
「そう?」
心配そうに顔色を伺いながら、おかずを取り分けてくれる
オバサンが作った煮物と唐揚げ、おにぎりが並んでた
「ハイ」
「サンキュ」
小皿に取ってくれたのは嬉しいけど‥‥
タッパーに並んだおにぎりは、確かにキレイな三角なのに
どうして、俺の皿のおにぎりは、‥‥団子みたいにまん丸なんだ?
「あ!バレた?それね~俺握ったの!愛情こもってっから」
「‥‥ナンだよ。それ」
徐に手掴みし、一口かじる
「おいしい?」
「しょっぱ!‥‥クソマジイな」
「ひどー」
貶されてんのに、あひゃひゃと笑って‥‥
内心、ホッとした
雅紀に抱き付いたのが
今さら、すげー恥ずかしくなってきて‥‥
向かい合わせに座って、唐揚げを頬張るヤツを、チラリと見た
暑いからって、Tシャツになってさ
裾を掴んで、パタパタしてる
「うま〜母ちゃんの唐揚げ、最高でしょ?」
「ああ」
「でしょでしょ」
まるで違う部屋みたいに光が灯る
空気にさえ、色が付いたみたいだ
「どしたの?」
「へ?」
「ボーっとして」
「何でもねーよ」
「やっぱ、ホントは熱あんでしょ」
箸を置いた雅紀がこっち側に回って来て
躊躇なく俺の額に手を伸ばすと、自分の額と比べてる
「やっぱり少し熱い気がする!」
むぅっと俺を軽く睨み
目の前でケータイを開いた
「母ちゃん?うん……そう。だから、そうするよ」
1分もしないうちに話が終わると
強引な女みたいに言った
「今日は帰らないから!朝まで俺、ここに居るよ」
思わずポロリと、
おにぎりが零れた
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