第3章 汚ねぇ大人になるように
【オセロ】
「じゃ、ニノ!また明日ね!バイバーイ!」
グレーの手袋を付けたモコモコの右手で
元気に腕を振って、いつも通りバイトへ向かう雅紀
俺は頷いて、ポケットに手を突っ込んだまま、背中を向けた
だけど‥‥
「雅紀、今日さぁ!」
振り返ってそう叫ぶと、ピタリと足を止め、俺に振り向く
下校する生徒の群が、雅紀を避けるように歩いて行く中
「なぁにぃ?ニノぉ~?」
「今日お前んち、行かなくていいのか~?」
また、『バイトの合間なんだ』って、
コソコソ電話するヤツを気遣って言った俺の言葉に
「早く帰るよ!でもさ、今日も会いに来てよ」
捉え方に寄っては、怪しいセリフだな(笑)
アイツは言葉を端折り過ぎんだよ
多分、『会いに来てよ』の前には‥‥"ゆうに"が付くんだろ
「じゃ、明日は休みだし、会いに行くよ」
くくっと笑いながら、そう叫んだ俺を
2人組の女子が、チラチラ見ながら通り過ぎた
「わかった!なんなら泊まってってね~」
俺以上にでかい、追い討ちのセリフに
『今の聞いたぁ』なんて声が聞こえる
思わずにやけそうになりながら
帰り道を歩き出す
今日は、ゆうが苦手だって言ってた、数学の問題集でも持ってくか‥‥
そんでアイツには、算数ドリルか百マス計算でも用意しよう
『俺‥‥ぜんっぜんわかんない』
‥‥って、一生懸命解いてんの
あれ、すげー笑えんだよな
そんな、クダラナイ事を考え
マンションに帰ってきた俺は‥‥
直ぐに違和感に気付いた
綺麗に揃えられた高そうな紳士靴
扉を開けて部屋に入ると
いつもの甘いムスクが鼻孔を擽る
「お帰り。カズ」
珍しく、ご主人様が待っててくれたなんて
ほら、
嬉しそうな顔して、尻尾振れよ
立ち尽くした俺を
もうひとりの俺が
早く、と急かす
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