第3章 汚ねぇ大人になるように
【青のプラトニック】
「も、だめ‥‥無理」
「ちょっ、こんな所でやめっ」
「限界だよ。もう我慢出来ないっ」
「だから止めろって言ってんだろー!」
いつもの空き教室
2人だけの空間
遠くでクラスメートの騒ぐ声が響く中
こんな寒い端の教室なんか誰も来ない
だからってお前‥‥
「超寝みぃ‥‥」
古い机の上には、食べかけのパンが置かれたまま‥‥
埃の被った床に転ぼうとしてる
「汚ねぇって(笑)」
「んじゃ、学ラン脱ぐ」
2月だってゆーのに、普通にシャツになって
バカだ‥‥やっぱ
「ほら!せめて床じゃなくてさ?椅子繋げて、ここに寝たら?」
笑いながら足で椅子を寄せると‥‥
雅紀はそれを近付け、ガバッと横になった
「時間なったら起こすよ」
学ランをお腹に掛け、目を閉じたヤツに言うと‥‥
「ニノ」
って、‥‥聞こえて
顔も見ずに、手招きしてきた
「‥‥なんだよ?」
「寝心地悪いってぇ‥‥この椅子」
目を開けた雅紀が、ニカッと俺に笑う
いたずらっ子みたいな目ぇしてさ‥‥
黙って見下ろす俺の手を引いて、椅子に座らせた
「ちょっ、やめろや!」
勝手にひざ枕しようとするから、パンっとデコを叩く
「‥‥ってぇ!んじゃ、背中‥‥貸してよ」
体を起こし、雅紀が、トン‥‥と、俺の背中に体重を掛けた
文句を言う間もなく、
小さな寝息が聞こえ出す
背中越しに伝わる体温と
骨張った感触
シャツになった瞬間にも感じたけど
‥‥少し、痩せた?
コイツは何も言わないけど、
相変わらず、いつも笑ってるけど‥‥
無理すんなよって、心配になる
バイトの時間も増えたみたいだし‥‥
最近、ちょっと頑張りすぎなんじゃねぇの
『愚痴のひとつくらい聞いてやるよ』
そんな一言さえ言えないなんて‥‥
『アイシテル』や『キミダケダ』なんて
歯の浮くようなセリフ
いくらでも言ってきたのに‥‥
そっか‥‥
ホントに気持ちがあると上手く言えなくなるんだな‥‥
せめて、昼休み終了まで15分
コイツが眠れるよう
猫背をピンと伸ばそっか
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