第3章 汚ねぇ大人になるように
【キミの大切なもの】
古びたアパートのエレベーターも、全く気にならないほど通い慣れて
迷いなく部屋の前に立ち、インターホンを押す
ぼんやりと灯る照明と、
バタバタ近付く足音も誰のものかわかってる
そっと開けられたドア
アイツと同じ、黒目がちな大きな瞳
「こんばんは」
「和兄!」
夕方、雅紀から電話があって、
帰りが遅くなりそうだからウチに来て欲しいって‥‥
普段は、2人で留守番だけど
今夜は中学生の弟が1人らしくて、心配になったらしい
「どしたの?雅兄、まだ帰ってないよ?」
「たまたま近くまで来たからさ?」
そう言って、コンビニで買って来た肉まんを渡した
「ありがと。‥‥って、ホントは雅兄に頼まれたんでしょ」
兄よりかは、鋭いのか
アイツが単純なだけなのか
俺は曖昧に笑いながら、部屋に上がった
「どっちにしたって、大歓迎だけどね?」
ニコニコ笑いながら、お茶をいれてくれて
『カレーあるけど食う?』なんて気遣ってくれる
俺が一人暮らしで家庭料理に飢えてる事を、
相葉家みんなで気にしてくれてるみたいで‥‥
それが、さり気なくて
恩着せがましくないっつーか‥‥
自然で有り難かった
「今日は、もーメシ食ったから大丈夫だよ」
「そ?じゃ、これ、一緒に食おうよ」
肉まんの袋を持ち上げて笑う顔は、やっぱり似てる
「雅兄は、こっちは全然頼りになんなくってさ」
「‥‥まぁ、ほら?勉強する間もないんじゃない?」
「それだけの理由かな(笑)」
宿題をしながら、弟の"ゆう"がボヤくけど
ホント仲いいからな、この兄弟
この家は、全てが暖かい
だから、
アイツだけじゃない
アイツを取り巻く全てが
いつまでも、このままであって欲しいって、
心から願った
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