第2章 無限に続く愚かな優しさ
【calculate】
俺より体のデカい‥‥ っつっても、
華奢な相葉は俺のスウェットを着て
熱いコーヒーを啜りながら、ソファーで小さくなってる
俺は何も聞かないし
相葉もやっぱり何も言わない
だけど‥‥
しばらくすると飲み終わったのか、マグカップを持って
俺に差し出し、言った
「ニノ、ありがとね」
潤んだ赤い目で
それでも笑うヤツの姿は、ますます俺を追い詰めるけど……
「どうしようかって、わかんなかったから助かった」
俺を必要としてくれる態度が、
真実を知らないからだとわかっていても‥‥
黒い瞳に映る自分の姿が、素直に、ただ、嬉しかった
わかってたんだ何もかも
彼女に約束をすっぽかされ、
絶望しながらもコイツはいつまでも待ってるだろうと‥‥
そこに俺が現れれば
間違いなく、俺に縋るだろうと
頭ん中で無意識に計算してた
昔からだよ
親に与えられる無償の愛情を
どうにか他人に補って貰おうと
気付いたら俺は、偉く要領のいいガキに育ってたから
この先生は、テストが良ければ贔屓目してくれる
近所のオジサンは、元気に挨拶したら、いつもお菓子をくれるんだ
弁当屋のオバチャンは、 おつかいの度に、
子供っぽく甘える俺を、『カズくんはイイコねぇ』って頭を撫でてくれた
殆どの大人は、『ゴメンナサイ』って泣いて謝れば、許してくれる
ずる賢いって言われないよう、 学校ではギリギリのラインを保つ
連むヤツはいるけど
トモダチとは呼べない
相談はされるけど
自分の胸の内は見せない
そんな術を
俺は当たり前に身に着けてきたから
「コーヒーお代わりしてもいい?」
「‥‥しゃーねぇな」
俺って‥‥
そんなヤツだよ
そんな俺だから、計算も何もない
まっさらなお前に惹かれたのかもしれない
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