第11章 世界にひとつだけの花
【疑似恋愛】
僕の側にいるのが当たり前になって……
ふたりの生活が、また始まる
身体を重ねれば、素直に感じてくれるようになったし……
僕が甘えると、すべて受け入れてくれた
僕が嫌がる事はしない
悲しむ事もしない
いつも、笑顔で
思い通りに存在した
「行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
暖かいキスで、見送ってくれる
そう……僕だけの人形みたいに
だから、安心してた
君は……僕だけのモノになった
……はずだった
偶然街で見かけた、あなたの姿
あの男と一緒だった
そりゃ、離婚したわけじゃないからね
会ってたって不思議はない
笑顔のあなた
隣には、あの気の弱そうな男
そして、
その男が抱いた
ちいさな男の子
誰が見たって、幸せな家族
目蓋を閉じ、……数秒
走り出した車からは、何も映らない
僕は知らない
何も見てない
……だって、ほら
仕事を終えて帰れば、あなたはちゃんと、あの部屋で待ってるんだよね
「……ただいま」
「おかえりなさい」
思った通りだ
君はちゃんと、ここにいる
「今日は何してたの?」
「……今日?ずっと部屋にいたわ。ゆうの帰りを待ってたの」
「‥‥そう」
僕は知らない
何も見てない
抱き締めたあなたから、
暖かな陽の匂いがしようとも
あなたさえいれば、
僕は何もいらない
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