第11章 世界にひとつだけの花
【蜂蜜】
最初は…
一度きりのつもりだった
甘い甘い、蜂蜜のように……
一度知った味を、忘れられなくて
時間が経てば経つほど、
また欲しくなって……
眠らせてた気持ちは安易に溢れ……
受け入れてくれない彼女を
受け入れるしかない状況に追い込んでた
店で働く子の中でも、
年齢が高めの彼女は、いろんな意味で目立ってた
ワケアリの美人な人妻
オーナーである僕と関係があるという噂
やっかみの対象になった彼女は店で孤立し、
相当、嫌がらせされたみたいだけど
精神的に弱った彼女に、付け入り関係を続けた
この頃からだ
家に帰る事が少なくなった
時々、用事で戻る事があっても……罪悪感と後ろめたさからか
妻の顔を見ることも出来なかった
それと同時に
「ぱぁぱ」
無言で靴を履いてる僕の背中越しに、
小さく響いた声
いつから、話せるようになったのか……
チラリと振り返った後ろには、小さな手が僕のスーツを掴んでた
辿るように視線を上に移すと……
澄んだガラス玉みたいな瞳が僕を見つめてた
ダメだって思った
こんな汚れのない瞳に、僕なんか写してはいけない
抱き締めてなんかあげられない
やっぱり僕は、昔のまま汚くて、どうしようもない人間なんだ
地獄に堕ちようと思った
彼女さえ、手に入れられたらいい
そう本気で思った
振り解いた小さな手のひら
としん…、と尻もちをついた翔が、ビックリして泣き出した
パタパタとスリッパの音が近付いて来たから
僕は…慌てて玄関のドアを飛び出した
.