第11章 世界にひとつだけの花
【ゆびきり】
施設を出た僕は、ひとり暮らしを始めた
ひとりの割には広めのマンション
結局、一命を取り留めた男は、体は不自由になったものの
それが返って、小百合姉ちゃんの気持ちを繋げる事になってしまった
「彼を支えていきたいの」
迷いのない眼差しで、そう言い、僕の気持ちを拒絶した
用意した部屋
あなたを驚かしたくて、
頑張って…頑張って…
意味なかったね
やっぱりこの世に神様なんていない
目的を無くし、ホストクラブで働く日々
来るもの拒まぬで誘いに乗り、
甘いセリフを口にした
そしたら、
誰もが僕を『愛してる』と言ってくれた
抱き合えば、伝わる温もりは、ひと時でも気持ちを紛らわせてくれた
それで良かった
もう、どうでも良かったんだ
だから……
オーナーに求められた時も、普通に抱かれたし
温もりを与えてくれるなら、男でも女でも関係なかった
そんな、何もかもに自暴自棄な時だった
店に来る客にしては、珍しいタイプ
終始控えめで、友達に連れて来られたらしい
その子は、……彼女と同じ香りを纏っていたから、
普段なら、絶対遊び相手には選ばないのに……
気付いたら、笑い掛けてた
男に免疫ないのか、
途端に俯いちゃって……
素直に"可愛い"って思ったよ
ホストクラブでオレンジジュースなんか飲んで……
凄く居心地悪そうなのに、雰囲気を壊さないように、ちゃんと笑ってさ
"客"なんだから、ホストに我が儘言ったらいいのにね?
「飲まないの?」
「ぁ…あの、飲めないんです」
「せっかくだから、飲んだら?……楽しんだらいいのに?」
「はい。……そうですよね」
また、俯いちゃって(笑)
「見たことない世界だったから、
ちょっと冒険してみたくって……」
はにかんだ顔も、
少し、似てる気がした
「冒険……僕が、させてあげる」
小指と小指が絡まる約束なんて
一体、いつぶりだったかな
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