第11章 世界にひとつだけの花
【暗闇のなか】
「ゆう!おい!聞いてんのか!」
背後から響く怒鳴り声
「酒買ってこい」
未成年がお酒を買えないだなんて、この人に言ってもただの口ごたえにしかならない
クシャクシャになった千円札を渡され
暗くなった寒空に飛び出した
雪は降ってはいないものの、薄着の身体は直ぐに体温を奪われ
指先の感覚は無くなりそうだった
走れば少しはマシだろうと少し離れた酒屋に向かう
おじいちゃんがやってる、古い酒屋なら大丈夫だからだ
スーパーやコンビニだと、いろいろ面倒くさい
いつもの一升瓶を抱えて、帰り道を急いだ
だけど……街灯もない路地に入った時
違和感を感じた
自分の足音と息を切らす音以外に、別の音が混ざってる
追い込まれるような意識の中
不安と恐怖がのし掛かかり、次第に足早になる
曲がり角へと急いで、
後ろを振り返り、途絶えた足音に胸を撫で下ろした
アパートはもう直ぐそこだ
たけど、一歩足を踏み出した時
目の前に人影が映る
背筋に恐怖が走った時には、何もかも手遅れだった
伸びた手に腕を掴まれ、口を塞がれると
何年か前から、売家になってる場所に引き摺られるのがわかった
経験はなくとも、今から起こり得る出来事が
いいことじゃない事くらいわかる
滑り落ちた一升瓶が、大きな音を立てた
男が反応した瞬間、
掴まれた腕を振り払い逃げようとしたのに
男の力は、自分より遥かに勝っていて、ますます強く引き寄せられる
噎せ返すような酒の臭い
恐怖でガタガタと身体が震え、いつの間にか口を抑えた手も離されていたのに
固まって声さえ出せない
冷たい手のひらが直に肌を触れる
身体が一瞬離れたかと思ったのも、束の間
下半身に移動していた手のひらは
僕のズボンを下ろし、中心に触れた
「…っ、やだっ」
必死に絞り出した声
だけど、僕に跨がったまま身体を起こした男は
目の前にナイフを翳した
月明かりに反射して、鈍い光を放つ
「騒いだら殺すぞ」
男は、本気で言ってるのだと示し、低い声でそう言うと
僕の頬に鋭利な刃を走らせた
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