第10章 夢見る頃を過ぎても
【聖者の行進】
ーニノsideー
はぁ…はぁ…はぁっ、
息を切らし、立ち止まると
膝に手をつき、必死で呼吸を整える
人通りの少ない路地の街灯の下
チラリと覗いた目の前のオトコも、胸を押さえてハアハアいってる
お互いに顔を見合わせ、どちらともなく笑い出した
「ひっでぇ顔」
汗にまみれた顔に、雅紀の茶髪が張り付いてる
「仕方ないじゃん!!すげー走ったんだから」
「そ~だけどさ(笑)」
ジャケットをパタパタしながら、熱を逃がそうとしてる雅紀の胸元がはだけて見えて……
そこにはハッキリと、仕事の痕が残っていた
思わず目を背け、締めてたネクタイを緩める
何もかも
もう後悔はしたくないと……
我が儘でも自分勝手でも
一番大切なものを、自分の手で守りたかった
雅紀に電話したけど………
………繋がらなくて
櫻井と一緒じゃないかって、不安もあった
だけどアイツは、
やっぱりバカみたいに自分を傷付けてんじゃないかって……
黒いスーツに身を包み、出勤を装って、店に向かった
……精一杯の戦闘服だった
黒服に雅紀が接客中だと聞いて、
制止を無視して、VIPルームの扉を開けた
泣きそうな顔してるクセに、自ら抱かれようとして
アイツは壊れる気なんだって、すぐにわかった
ボロボロの身体を守りたくて、夢中で飛び込んだんだ
怖かったよ
すげー、怖かった
オマエが隠しておきたかった事を、俺は知っていると明かすのは……
プライドを守ってやれなくてゴメンな?
それでも………
直ぐ側にいる雅紀を見てると
やっぱり後悔なんて、少しもなかった
「とりあえず、休も?」
クタクタの身体をどうにかしたくて
目の前に見えた古そうなホテルを指差した
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