第10章 夢見る頃を過ぎても
【ゼロ】
-ニノside-
やっと、拘束された身体が自由になり
血の滲む手首を擦りながら、ユウさんの横顔を見つめた
呆然とする俺を後目に、ユウさんはシャツを羽織ると煙草に火を付ける
常軌を逸する行動の全てが、途端に熱を冷まし……
何事もなかったかのように、静寂が訪れた
俺を、母の代わりにしたユウさん
狂ってしまったのかと疑うほど、この数日間やこれまでの行動は異常だった
だけど……
もしかしたら……
ユウさんは、
そうなりたいのに、成り切れなかったのではないか……?
狂いたくて、
ワザと、そうしてたのではないか……
黙り込んだ俺に、相変わらず色のない瞳で微笑む
「シャワー、浴びたら?」
「……うん」
複雑な感情を秘めたまま、熱めのシャワーを浴び、
必死に頭ん中を整理した
復讐やら、憎しみやら……
それを果たせば、
新しい世界が広がると思ってた
すべてゼロから、まっさらな状態で始められると……
だけど、気付いたんだ
黒く染まった掌も身体も……決して元には戻らない
闇は晴れても……
どこかでそれを背負って、生きて行かなきゃなんねーんだ
ただ、
太陽に背中を向けたまま闇にいるのも、自分次第
闇を背負っていたとしても、
必死にもがいて、前を見つめるのも自分次第
「……ふっ…ふふ…」
身体中の傷が染みて、ジンジンと痛みが走る
だけど、
この傷だって、いつかは消え……癒やされるはずだ
「……バカだよな」
キュッと、シャワーを捻り、バスルームを出ると
そこには、もうユウさんの気配はなかった
バスタオルを頭から被り、乱暴に水気を拭き取る
洗面台の鏡に写る俺は、
自分で言うのもナンだけど?
「こんなオトコマエがね……
なに、弱気になってたんだか」
ケータイを取り出し
“雅紀”の名前を表示した
・