第10章 夢見る頃を過ぎても
【Bye Bye Blackbird】
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「お父さんはね、
すごく優しい人なの」
お家に、いつもいないのに?
お母さんも僕も寂しいのに?
「繊細で、純粋で、
だけど、ちょっとだけ
‥‥人を愛するのが、下手な人」
お母さんは、泣きそうなのに、そう言って笑ってた
僕と遊んでくれないよ?
抱っこもしてくれない
一緒にお出かけもしないし
ご飯だって一緒に食べないよ?
「お母さんは…、
お父さんが好きなの?」
未だに、その時の母の顔は忘れられない
はにかんだ笑顔で、
それでもハッキリと答えた母は、子供心にキレイだと思った
「大好きよ」
だから、その時俺も答えたんだ
「じゃあ、僕も
お父さん大好き!」
目の前の父親に‥‥
好きになれる要素なんかないのに、
母の想いを重ねると、どうしても憎みきれなかった
だから、
母が死んでから
父を調べて、もうひとつの帰る場所を突き止めた時
見てしまった光景
俺が、ずっとずっと望んでいた場所に
"アイツ"がいた
歳も、俺とそう変わらないだろう
父さんの隣で当たり前に笑って
それを父さんは、
愛おしそうに、微笑んで……頭を撫でた
マンションの駐車場
車の影に身を潜めて、
……酷く虚しかったのを覚えてる
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