第10章 夢見る頃を過ぎても
【琥珀の月】
ー櫻井sideー
応答もないまま、鍵だけが解除された
二宮の素っ気ない態度かと、疑いもないまま部屋に向かう
部屋の前のインターホンを押しても、なんの反応もなく
手を掛けると、…ドアは既に開いていた
玄関に足を踏み入れ、直ぐに目に入ったのは、綺麗に並んだ男物の革靴
それは簡単に誰のモノだか想像出来た
鼓動が速まるのを意識し、冷たい廊下を進む
微かな音に、耳を凝らした
薄暗い部屋
開いたドアに人影が映る
覚悟はしていた
それでも、
目線を外せないまま、動きを止めた
言葉が出て来なかった
父さんの下で、
声を上げる二宮と視線がぶつかる
お互いに何も言えない……
だけどそれは、
父さんの身体が遮り、二宮の表情はわからなくなった
喘ぎ声に混ざる金属音
二宮の頭上で束ねられた両手は、ベッドの柵と繋がっていて……
モニターを確認し、鍵を開けたのは誰かは明白で
二宮を覆う背中
父親の…‥こんな姿、誰が見たい?
「……な、んで‥‥だ、よ」
無意識に漏れた声
俺がここにいるのに、まるで存在しないみたいに?
「あっ、あっ‥‥は、ンッ」
堪えるような二宮の声が響く度、
金属音もベッドの軋む音もデカくなって、
行為が激しくなるのがわかる
「ちょっ‥‥、ユ…ウさっ」
はぁはぁ言いながら、二宮が抵抗を見せると
腰を下ろしてた父さんが、そのまま、……俺を見る
ドクン、と響いた心臓は、そのまま早鐘を打つ
冷たい父親の視線が俺を捉え
薄い唇から放たれた言葉は……
温度を持たない
「‥‥これでわかった?
僕の、だからね」
それが、息子に言うセリフか
俺は…
俺はいつだって、
ただ……あんたに、
認めて欲しかったんだ
あんなに憎んで憎んで……
母さんを死に追いやったあんたを憎んで……
だけど、その母さんから俺は
あんたの"いい所"だけを聞いて育ってきたんだよ
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