第10章 夢見る頃を過ぎても
【ウソツキ】
ー雅紀sideー
「……へ?どゆこと?」
リンゴの皮を必死に剥いてる俺から、リンゴを奪うと、
母ちゃんが、それも貸してと手を伸ばした
果物ナイフを渡しながら、座ってたパイプ椅子をベッドに近付ける
「だから、父ちゃんの借金、先方の手違いだったらしくて……」
ドクン、ドクンと鼓動が高鳴るに連れ、
母ちゃんの安堵の声が、遠くに聞こえる
借金……無くしたの、
しょーちゃん……だよね?
「どうかしたの?」
「え?あ…ううんっ」
キレイに剥かれたリンゴを渡され、 一口かじると、甘酸っぱい味がした
「雅紀、苦労させてごめんね」
母ちゃんが、泣きそうな顔して俺を見てて
「…な、何言ってンのっ」
つられて泣きそうになるから、ふざけるみたいに笑う
借金が無くなれば、
あんな仕事しなくったって、どうにか生活出来る
「あんたはホント、
すぐ泣く子だね~」
母ちゃんがそう言って、俺の頭を撫でてくれた
父ちゃんが生きてた頃、よくしてくれてたのを思い出して、
また、……いろんな思いが込み上げる
「泣いてないってば」
借金無くなったんだ。良かったよ
母ちゃん、笑ってるしさぁ
だけど俺、
嬉しいって思った瞬間、しょーちゃんの顔が浮かんだの
俺、最低だ
ニノの為に、しょーちゃんと付き合って見張ってればいいだなんて…
そんなの言い訳で
ホントは少し
借金の事、どうにかなるかもって、考えてた
俺、しょーちゃんをどっかで利用してた
「あんたも高校生なんだから、居酒屋のバイトは辞めなさいね。
母ちゃんも、来週には退院決まったし……」
ダメだよ俺
ズルい……よ
「何言ってんの。俺、やめないよ」
母ちゃんが心配するから、必死で笑った
笑ってれば、 いいことある、だなんて
ホントなのかなぁ
ね‥‥母ちゃん?
俺、ちゃんと笑えてる?
どうしようもなくね。不安になるんだ。
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