第10章 夢見る頃を過ぎても
【スターゲイザー】
雅紀に連れられて来たのは
帰り道から脇道にそれた、古い駄菓子屋
子供ん時でさえ、あまり来た記憶がない類の店
今時珍しい、古い引き戸の入り口を開け店内に入ると
少しカビ臭いニオイがして、だけど、不思議と嫌な気はしなかった
昭和を思わせる風情と
そのまま時間が止まってるかのようなお婆さん
ひとつ10円~100円、と書かれた棚を見渡した雅紀は、得意気に俺に言った
「いっつも奢ってもらってるから!今日は俺がごちそうしてあげる!」
「ごちそう…って」
「エンリョしないでいいからね」
「遠慮、っつーか」
苦笑いして立ったままの俺に
"うまい棒"やら"シガレットココア"を勧め、
「懐かしい〜」って、おしゃぶりの型した飴なんかを渡してきて……
「コレは無理だろ(笑)」
「なんでぇ?あ!しょーちゃんはおしゃぶりしなかった派?じゃ~こっちのがい?」
にこにこしながら、手渡ししてくれるけどな……
「おっぱいチョコ…?」
「せっかくだから、いっぱい買いなよ!ね?」
「ちょっ」
勝手にカゴに詰め、楽しそうに笑って
『せっかくだから』の意味わかんねぇよ
「オバチャン!俺、クジやりたい!」
お前は、騙されてんだよ
大好きなニノに、酷い事してんだよ俺は
何も知らないから、お前はそうやって笑ってられんだよ
店を出ると
オレンジ色の夕陽がヤケに鮮やかだった
思わず目を細めた俺に
雅紀は駄菓子の入った袋と
何かを掌に握らせた
「ナンだよコレ」
「クジで当たったの。流れ星見たことないんだよね?代わりに願い事叶うかもよ」
ふふっと笑って、雅紀は背中を向けた
小さくなる後ろ姿を見つめながら 、
握った掌を、ゆっくりと開く
「願い事あんの、お前の方だろ」
プラスチック素材に
四つ葉のクローバーが描かれた安っぽいキーホルダー
神様なんかいねぇよ……
お前だって、
自分で叶えるもんだって言ってたじゃん
掌に握り締めたソレを、ポケットに押し込んだ
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