第9章 BAD KIDS
【初恋クレイジー】
ーニノsideー
更衣室で着替える俺に、背後から視線を感じた
同時に態とらしいコソコソ話
自分に向けられてるモノだと直ぐにわかった
気付かないフリして、ネクタイ締めて……
よくある話だ
男にだって、妬みや恨みが出てくる
客を取った取られただの、トラブルだって無いわけがない
「おはよ~」
脳天気な声に反応すると、
サトシが、俺の噂話してるヤツらに、ニコニコと挨拶しているところだった
人気No.1な上、ベテラン
人当たりはいいし、温厚
だけど、キメるときはキメるサトシは
俺らの間や、上のお偉方にも一目置かれた存在だった
VIP客がサトシを独占したいと金を積んでも
何故かアイツは、フリーで指名を待ってる
「おはよ。カズナリ」
肩にポンと触れ、ヨレた上着を脱いで、サトシが着替え出すと
後ろのヤツらは何も言わなくなった
「さすが伝説」
「は?」
「うんにゃ」
バタンとロッカーを閉め、BARに向かおうとした俺に
サトシの声が響く
「らしくないね?
固定客もいる稼ぎ頭のお前がさ……なんで必死に客引きしてんの?」
「そりゃ、もっと稼ぎたいからね♪」
「……そう?」
チラリと俺を見て、シャツを羽織って…
何が言いたいんだよ
オタクのがらしくないでしょ
干渉しないタイプのクセに
「下っ端が仕事ないって、ボヤいてたからね」
「あ~、そりゃ悪かったね」
気持ちの入らない言葉を吐き出すと
何故かサトシは、くふふと笑った
「……なにそれ」
「別に。……ちょっとね?
コレをキッカケに辞めて欲しいヤツいんだよね」
「こわっ…アナタ嫌いなヤツでもいんの?」
サトシの意外な言動に眉を顰めると
相変わらず笑ってる
「むしろ…気に入ってんだわ。辞めて欲しいね、アイツには」
「……ふーん?」
全く意味がわかんねぇけど、
付け足した言葉には
敢えて……、気付かないフリをした
「お前にもな」
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