第9章 BAD KIDS
【すべては掌のなかに】
ー櫻井sideー
「仕方ねぇな。購買部行こっか」
「行くーっ!」
「焼きそばパンあるといいな」
「うん、腹減った~!」
並んで教室を出ると
冷えきった廊下が、ジワジワと体温を奪う
そんな寒さを気にもせず
いや。もしかしたら、
それさえ気にならないほどの緊張状態だったのか
いつも笑って元気な雅紀が、今日は一段と明るい
弾んだ足取りで、口笛まで出る始末だ
健気だね
ホントは怖いんだろ
今日、ドコの誰に抱かれんだろな
ハジメテだもんなぁ
忘れられない夜になるといいな?
「ほら!奢ってやるから、好きなの選べ」
「まじでっ!」
「腹減ってんだろ」」
「ふふっ、ありがと」
屈託のない笑顔で、真っ直ぐに俺を見る
……何故だか不意に思い出した
『相葉君て太陽みたいよね』
中学の頃、
女の子達がそう言って噂してた
『いつも元気で明るくって、彼氏だったら楽しいよね』
お前の未来はきっと
幸せで満ち溢れてた
二宮と出会っていなければ、
イヤ、もしかしたら俺とも出会わなければ
叶ったのかも知れない
「ニノ~!みてみてっ、
しょーちゃんがね、買ってくれたの」
両手いっぱいのパンの山を、二宮の目の前に置くと
「オマエ、これ全部食えねーだろ」
カフェオレを飲みながら、マンガ片手に苦笑いで応えてる
冷めた瞳が、
雅紀の前じゃ解かれる
「腹減った腹減ったって、朝からうるさくてさ」
「あ~、幸せっ」
「そんな慌てて食べたら喉詰まるよ?」
俺がそう言った途端、お約束のように咽せてる
「ほらほら言わんこっちゃない」
背中をさすりながら、缶コーヒーを手渡した
「アリガト、しょーちゃん」
「イヤ、いいけどね」
「オマエ、誰も取りゃしないんだから」
二宮が笑う
雅紀を見て、目を細める
その存在が、
お前の揺るぎなき唯一なのか
お前のせいでね
雅紀は地獄に堕ちるんだ
笑ってんのは今のうちだけだ
『笑顔の理由』より