第8章 僕達の失敗
【重なる想い】
ー雅紀sideー
当たり前みたいに集まってた空き教室にも
ニノは、あの日から顔を出さない
とっくに食べ終えた、パンの包みを握りしめたまま
窓の外の、
白に近い水色の空を、真横に眺めてた
時折聞こえる背後の紙擦れの音
まるで独り言みたいに話し掛ける
「たぶん、そうなんだと思う」
「え?」
「しょーちゃんに言われて気づいたんだ
……好きだよ、俺」
しょーちゃんは何も言わなかった
俺も、そのまま空を眺めてた
その日は、来店するユウさんの時間に合わせて出勤した
ユウさんの後を着いて歩き、例の部屋に真っ直ぐに向かう
「始まってるはずだから」
ドアを開けると、ガラスの向こうに重なった影が見える
スーツを淫らに着崩した、ニノの姿だ
ホントはこんなやり方、したくなかった
でも……
男に跨がられ、喘ぐ様を黙って見つめた
首を反らし、あの涼しげな瞳が憂いを帯びる
ガラスを通して、それはこちらに向けられた
あんなに驚いた顔、初めて見たよ
俺と合った瞳は、
直ぐに、解かれる
無理矢理、唇を貪られ‥‥視界は遮られたから
呆然と立ち尽くし、
初めてここに来た日と重ねた
あまりの衝撃で、
俺は泣いてしまったっけ‥‥
男に揺らされ漏らす声は、
心臓を潰してしまいそうなほど、切なくて苦しい
本当は今すぐ、連れ去ってしまいたい
予定の時間が過ぎ
仕事を終えたニノが
ドアを開け、こちら側の部屋に入って来た
睨むように俺を見るけど
絶望した瞳は、きっと俺と同じだね
もう、こんなことしないでいいからね
ニノは俺が、
‥‥守るから
「なにしてンの?まじで引くんだけど!」
蔑んだ視線を送り、
赤い痕を点々と付けた胸元を、ジロジロと見入った
「あのお金さ、ニノでしょ?
こんなキタナイ金だったなんてな」
ワザと選んで言った、傷つけるためのセリフに
願った通り、ニノが顔を歪めた
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