第8章 僕達の失敗
【悩める仔羊 2】
ー雅紀sideー
ドアを開ける前から、
誰が指名したのかなんとなく予感がしてた
「久しぶりだね」
品のあるスーツを着こなし、俺に寂し気な笑みを見せたのは
‥‥やっぱりユウさんだった
ユウさんが店に来れる時間より早く出勤し、 指名を待った
あれだけ俺を守ってくれた人だから、
そろそろ会いに来るんじゃないかって、覚悟はしてた
「話したいことはたくさんあるけど。…マサキ君、痩せたね」
隣に座った俺の頬に、ユウさんの手が伸びる
「だいぶ仕事にも慣れたし、
そのぶんお金になるし!俺、もう大丈夫ですから」
にかっと意識して笑顔を作り、
空のグラスにワインを注いだ
それをユウさんに『どうぞ』と差し出す
ココにいるときは、
仕事だって割り切らないと、色んなことに押しつぶされそうになる
傾けられたワインを見ながら、自らネクタイを緩めた
驚きを隠せないよう、
飲みきらないまま、グラスがテーブルに置かれる
「ユウさん、残してるよ?‥‥始められないよ、それじゃ‥‥」
ユウさんの視線を感じながら、
グラスの底に残った赤を、グイッと勢い良く口に含む
想像したより渋いだけの味が口内に広がり、
そのまま、ユウさんの頬に手を添え唇を寄せた
隙間から少しずつ流し込み、ユウさんの喉が鳴るのが聞こえ
お互いに閉じないままの瞳
‥‥視線がぶつかる
「どうして、君はそこまで…」
何故だろう
借金があるから?
家族を支えなきゃだから?
ニノが俺の為に身体を売ったから?
申し訳ないって、
それなら俺が…って?
いっぱいいっぱい考えたよ
正直ね、どれが正解なのかもわからない
だけどさ? ひとつだけ、確かなことがあるんだ
「ユウさん、安心して。ニノは仕事辞めるから」
「マサキ君…?」
どうして俺が、代わりに働こうと思えたのか
簡単に決断出来ることじゃない
だからさ、ニノは俺のこと‥‥ きっと、おんなじだよね
「ユウさん、最後にひとつだけ
お願いしてもいいですか」
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