第8章 僕達の失敗
【悩める仔羊】
ー雅紀sideー
「って!マサキってば」
「へっ?…え?あっ、はい!」
「どしたの?早く着替えなきゃ」
私服姿のままの俺に、サトシさんが笑った
周りにいた人達は既に着替え、控え室に移動したらしい
「わわっ、時間過ぎてるっ」
モタモタとシャツを着替え、ネクタイを締める俺の背後で‥‥
サトシさんは俺を急かしておきながら、煙草をポケットから取り出してる
急がないでいいのかな…、なんて鏡越しに思ってると
胸の内を読まれたのか、サトシさんの声が響く
「今日は予約客相手にVIPルーム貸切なの俺」
「そうなんですか」
「そう。見せもんだよ(笑)」
「それって、稼げますか?」
VIPルームって、ここに初めて来た時……ニノがいた部屋だよね?
「まぁね。とにかく上客に気に入られないと」
やっぱり稼ぐには、
たくさん客とって、気に入られなきゃなんだよね
ニノは。どれだけ俺の為に‥‥
「まぁ、お前なら頑張ったらイケんじゃない」
「頑張ります俺」
「うわ~、俺、仕事なくなるかもね」
灰皿に煙草を押し付けながら、
サトシさんは立ち上がると、ジャケットの襟を正した
「カズナリ、来ねえな」
ボソッと呟くサトシさんの声に、ピクッと反応する
「‥‥‥」
「…?何、どした?」
「イヤ。何でもないです」
カズナリって、ニノのことだよね
もしかして、今日も…あの部屋で?
「じゃ~、行くか。ね?」
背中を押され、更衣室を出た
一番奥にあるVIPルームに向かうサトシさんを見送り、
待機してる控え室のドアを開け、入った瞬間
ドアの向こうに足音が聞こえた
『サトシ、ワリィ!遅くなった!』
聞き慣れた声が、
耳奥に響き、苦しくなる
どうして、来てるの?
俺、あんな事いったのに‥‥
ドアに背中を付けたまま‥‥
頭ん中でぐるぐる考えたけど、
ニノがどうして俺の為に、
ここまでやってくれるのかわからなかった
それとも、俺の為だなんて、思い上がりなのかな
わかんない。わかんないよ。もう……
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