第7章 僕が僕のすべて
【初日】
「とりあえず、これに着替えて」
「はい」
渡された黒いスーツを受け取り、案内された更衣室で着替える
スーツなんて着たこともない
冠婚葬祭だって制服だから、
ネクタイひとつするのさえぎこちない自分に、ますます不安が募る
どうにか着替え、鏡に写した姿は
やっぱり違和感があって
固まった表情に、こんなんじゃダメだと、両頬を叩いた
「初日?」
いきなり背後から声を掛けられて、
ひとりきりだと思っていたから、びっくりして振り返った
「あ~?ごめん。驚かしちゃった?」
ふにゃんと笑うその人の優しい雰囲気に、少しだけ肩の力が抜ける
「あ‥‥ダイジョウブ、です」
「そう?」
その男の人は、もう一度笑って‥‥
側のソファーに座ると、
クシャクシャになった煙草のパックを取り出し、火を点けた
立ち昇る煙越し、黙ってた俺に、話し掛けてくれて……
「今日からでしょ?‥‥すげぇ、固まってる(笑)」
「あ、やっぱり…わかりますか」
落ち着かないスーツの裾を、ギュッと握りしめた
「まぁ、無理しないで。ボチボチやんなよ」
「はい」
「あ~、‥‥そう言えば」
その人は、思い出したように、ポケットを探って
取り出したソレを、俺にホイッと放り投げた
「わわっ、」
咄嗟に前のめりで受け取ったのは 、
赤いパッケージのチョコ菓子だった
「えっと、あの」
「景気付け?
パチンコの景品だから。よかったら食って。
あ~、俺サトシね。よろしく」
「あ。宜しくお願いします。俺、相葉雅紀っていいます」
ガバッと頭を下げて挨拶した俺に、
「そんな堅苦しいの止めてって(笑)」
苦笑いしながら、サトシさんは煙を吐き出した
ガチャリと開いたドア
無表情の黒服の男の人が俺を呼ぶ
「マサキ、指名」
その声に反応し
また、全身に力が入る
「早速指名?
凄いじゃん。行ってらっしゃい」
そう言って見送ってくれたサトシさんに、笑顔を貼り付け頭を下げた
・