第7章 僕が僕のすべて
【笑顔の理由】
「ニノ!みてみてっ、しょーちゃんがね、買ってくれたの」
ドアを開けながら、いつもよりデカい声で雅紀が入って来た
両手いっぱいのパンの山を、俺の目の前に置く
「そんな食えねーだろ」
パックのカフェオレを飲みながら、マンガ片手に苦笑いで応える
「腹減ったーって、朝からうるさくてさ」
缶コーヒーを傾けながら、俺と同じに、苦笑いする櫻井
早速袋を開け、パンを頬張って‥‥
「あ~、幸せっ」
直ぐに2つめに手を出してる
「そんな慌てて食べたら喉詰まるよ?」
櫻井がそう言った途端、お約束のように咽せる雅紀
「ほらほら、言わんこっちゃない」
雅紀の背中をさすりながら、
缶コーヒーを手渡してる櫻井は、まるで母親みたいだ
「アリガト。しょーちゃん」
「オマエ、誰も取りゃしないんだから」
呆れながらも、明るく笑う雅紀に内心ホッとしてた
もしかしたら、
あのお金が少しは役立ててるんじゃないかって
生活が、ちょっとはマシになってんじゃないかって
「おばさんの具合はどう?」
「大丈夫だよ。早く退院したいってぼやいてるもん」
「そか、良かった」
おばさん退院したら、また違うよな
『心配しないで』って、
軽く受け流す雅紀に、なんの疑いもなくて‥‥
「ゆうくんの勉強見るの、いつでも言って?」
「うん!お願い。ゆうのヤツ
雅兄の友達はどうしてみんな頭いいのって‥‥
やっぱりバカだから世話したくなんのかな~なんて言うんだよ!」
「イヤ、当たってるし?」
俺のセリフに櫻井が頷く
「ふたりしてひどー!」
久々に笑って
ハシャいでる雅紀に嬉しくなった
オマエはこの日
何を思って笑ったの?
必死で自分を見失わないよう、テンション上げて頑張った?
オマエらしいよ
らしいのにさ?
遠い未来、この日を思い出す度に
俺は苦しくなる
今晩起こる出来事に、
オマエは怖くて仕方なかったんだろ?
その瞳の奥が、
不安で揺れてなかったのか
何も気付けなかった自分に、死ぬほど頭にきたよ
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