rain of tragedy【黒バス/ナッシュ】
第1章 rain of tragedy
数日前、友人に誘われて出かけた店でのことだった。
名無しは息抜きのつもりで食事に出ていたのだけれど、友人はその明朗な性格ゆえ、自分の知人も複数呼んでおり、夜には結果的に盛大な会食が開かれた。
その複数の中には異性も数人混ざっていて、会話が弾んだことから各々が連絡先を交換、好意を持たれたことから、やりとりは連日続けられた。
名無しも一人の異性に積極的に声をかけられており、いいやつだと友人に言われたことが彼女の背を押し、やがては連絡を取り合う仲に自然と繋がった。
そうして最初に誘いを受けた約束の日は奇しくも、数日ぶりにナッシュに呼び出された翌日のことだった。
どちらも断れなかった名無しは、ナッシュの部屋で一晩過ごし、そのまま家に戻って、午後から男と会おうと決めていた。
「なんで・・・」
「おいおい・・気付いてねえとでも思ったのか?オレが」
「・・・・・」
「何度も携帯に目を向ける。連絡が来てねえか確かめる。・・・時計を見るフリでごまかそうとしても無駄だ、そわそわしやがって。それに・・・おまえは今嬉しい筈だ・・・違うか?」
ナッシュの周囲に潜む女の陰。
それに過敏になる自分を恥ずかしいと思う名無しは、今の自分が、そのままそれを辛辣な言葉で返されている気がして、動揺に目を泳がせ、こめかみには薄く汗を滲ませた。
清々しいと感じた筈の朝は、一瞬でもうどこにもなくなった。
名無しを追うように、追うために、ベッドから起き上がりローブを羽織ったナッシュと鏡ごし目が合う。
その瞬間の彼女の背筋に走った悪寒は、気のせいでもなんでもなかった。