ヤンデレヴィクトル氏による幸せ身代わり計画【完結済】
第1章 契約の話
いりません、はじめはそう口にしようと思った桜だったが、万が一「じゃあ塗ってあげるよ」とか言われたらたまらない。
大人しく薬の入った容器を受け取って、人差し指で少し掬いとり、恐る恐る陰裂に塗りつけた。
「ちゃんと塗れた?」
「はい、ってだから確認しようとするのをやめて!怒りますよ!!!」
ごめんごめん恥ずかしいんだよね、忘れてた、とあっけらかんと言われればなんだか1人で怒ってるのも馬鹿らしくなってきて、桜は布団を被り、ふて寝を始めた。
「そろそろ1時間経つけどどうする?まだ寝てる?」
穏やかな声に起こされ、桜は重たい瞼をこじ開けた。
「おきます、おこしてくれてありがとうございます」
どうやら薬が効いてくれたようで、桜を蝕んでいた頭痛はすっかり無くなっており、それから塗り薬のお陰か、陰部の痛みも少し和らいだように思った。
「なにか食べられるかい?」
「まだちょっと食べたくないので、お水だけ貰っていいですか?」
「OK、持ってくるね。あ、思ってたんだけど口調がかなり丁寧だよね?さっき怒った時みたいに喋ってよ、名前もニキフォロフ選手じゃなくてヴィクトルって呼んでほしいな」
「え、いやでももう会うこともないだろうし
、遠慮しときます」
桜がふるふると首を横に振って言えばヴィクトルの顔は驚きに染まった。
「さっき乱暴にしたの怒ってる?ごめんね、お願いだからもう会わないなんて言わないで?また来てよ、君みたいにいい子は他にいない、俺を助けてほしい」
「まあ、二度としてほしくはないですけど、そういうのは関係なくて、えっと、助けるって言うのは勝生選手の身代わりの話しですよね?
私正直体だけの関係って虚しいし、お互いにとってもよくない事だと思うんです。昨日は酔ってたから了承したけど、素面では受け入れられません」
「そんな…お願い、俺を助けて?そうだ、約束のものもまだ渡してなかった」
そう言ってまた部屋から出ていったヴィクトルに、約束のものって一体なんだったっけと首を傾げていると、戻ってきたヴィクトルは大金を手に持ってた。
「これで足りない?もっと出したら会ってくれる?」
うるり、と滲む涙に桜は罪悪感が募った。