ヤンデレヴィクトル氏による幸せ身代わり計画【完結済】
第1章 契約の話
爽やかに微笑むヴィクトルに、桜は朝からなんの話しをしているんだろうと別の意味でまた頭を抱えたくなった。
「そういえば薬を持ってきてあげるって言ってたね、ちょっと待ってて」
そう言って男は部屋から出ていった。
さて、服を着なければ、辺りを見渡すがどこにも置いてない。
さっさと服を着て帰りたかった桜はがっかりと肩を落とし、彼が戻って来るのを待つ事にした。
暫くして扉が開くと、ヴィクトルと、その後ろに茶色い大型犬が顔を出した。
ーーあ、噂のマッカチンだ。
そう、思った瞬間、わん!と一声鳴いたあとヴィクトルの横をすり抜けて、マッカチンは桜の上へと飛び乗った。
「うわ、ちょ、あいたた、頭割れそうだから待ってー」
ふんふん、と匂いを嗅がれ、顔中ぺろぺろ舐めてくるマッカチンに、くすぐったい、だめー、うう、う、頭に響くー、待ってーなどの言葉を繰り返す姿にあはははは、とヴィクトルは笑い出した。
「マッカチン、今そのお姉さんは体調が良くないんだ、また元気になったら遊んで貰おうね」
水と薬を手にしたヴィクトルはじゃれ合ってる桜とマッカチンの傍まで近づき、そう語りかけた。
すると、マッカチンはそっと桜の上から退いて、きゅーん、と甘えた声で鳴くと、桜の手を1度だけ舐めた。
「昔見た雑誌に盗み食いをするって書いてたけど、きみはとても賢いんだね、心配してくれたのかな?どうもありがとう」
桜は嬉しくなって魅惑のもふもふとした毛並みにそっと手をおいて左右にゆっくり撫でると嬉しそうに尾を揺らした。
「よかったねマッカチン、褒めて貰えて嬉しいね」
わふ、と控えめに鳴いたのは桜の体調を考慮してか、桜が撫でている手に大きな手が重ねられ、男の顔に視線を向ければ、「薬飲める?」と差し出してくれたので、感謝を述べて桜は有難く薬を胃に流し込んだ。
「あの、すみません、私の服ってどこにありますか?そろそろ帰ろうと思うんですけど」
「薬が効くまでゆっくりしていけばいいよ、俺も用事があるのは昼からだから」
「じゃあお言葉に甘えてあと1時間くらい横になってていいですか?」
「もちろん、あ、塗り薬もちゃんと持ってきたよ、自分で塗る?」
「……いえ、あ、はい」