ヤンデレヴィクトル氏による幸せ身代わり計画【完結済】
第3章 少し関係の進んだ身代わりの話
「ううん……今、何時だ…?」
熱に浮かされたのではなく、鳥の鳴き声でヴィクトルが目を覚ました時、目の前は真っ暗で顔や体の前の部分が気持ちのいい温かさに触れていた。
「今は7時を少しまわったところ、口を出すのも烏滸がましいと思うんだけど、夜中は熟睡出来てなかったみたいだし、今日は練習お休みしたほうがいいんじゃない?」
「そうか…心配してくれてありがとう、サクラ、今日はオフにしてもらったから、ゆっくり休むよ………ん?サクラ?」
「ん?なに?熱はもう無いみたいだね」
「あ、いや…なんでサクラがいるんだけっけ?…ああそうか」
ヴィクトルは混乱する頭で記憶を辿り、やっと昨夜自身が熱を出して、連絡が行き届かずに桜が来てしまった事を思い出した。
さらに帰っていいと言ったにも関わらず、未練たらしく寂しがっていたヴィクトルの為に彼女が泊まってくれて、抱きしめて寝てもらい、夜も何度も助けてくれた事を思い出した。
(頭がぼんやりしてたせいか、結構なワガママを言った気がするけど、怒らずに看病してくれてたな)
温かいこの体温が桜のものだと分かると、さらに心地よく感じ、その肢体を掻き抱くと、また柔らかな胸に擦り寄った。
「サクラ、今日、ずっといてくれる?」
「予定はないから大丈夫」
擦り寄る動きで銀色の細い髪がキラキラ光る。
それに釣られるように指で梳けば気持ちいいと呟きが聞こえた。
「じゃあ今日も泊まっていって、お願い」
「いいよ、もう少し寝る?マッカチンのご飯の場所教えて貰えたら私用意するけど」
「ううん、俺もお腹すいたし、起きるよ。でももっとこうしてたい、動きたくない…」
今の体勢のまま桜が仰向けになるように転がったヴィクトルは背にまわしていた腕に更に力を込めて、ぽそぽそと言葉をこぼした。
「何か作ろうか?って言ってもブリヌイくらいしか作れないけど、ああ、でも私なんかが作ったものなんて食べないよね?なにか買ってこようか?」
「なんでそこネガティブなの?サクラの手料理食べたいよ!」
「…ヴィクトルさ、もう少し危機感持った方がいいよ?私じゃなかったらきっと変な薬とか入れられて既成事実とか作られてたよ?」
思わず顔を上げて言ったヴィクトルに桜は真剣な声でそう返した。