ヤンデレヴィクトル氏による幸せ身代わり計画【完結済】
第3章 少し関係の進んだ身代わりの話
「お邪魔しまーす」
きちんと、事前に鍵を使う旨を連絡して、それに対し返信だって来た。
なのにいざ使ってみれば、部屋の明かりはついてはいなかった。
いくら白夜の時期で外が明るいからといってもカーテンが閉められているせいで薄暗い。
スマホのライト機能を使い、万が一にも家主の愛犬にライトが直撃して眩しい思いをさせないように、少し上を向けたまま明かりのスイッチを探すために当たりを照らせば、マッカチンが元気よくわん!と吠えたあと、きゅーんきゅーん、と甘えた声を出して桜の足に擦り寄ってきた。
「こんばんはマッカチン、電気の場所分かる?」
「わん!」
もちろん、と言うように一つ吠えてから、近くの壁へとマッカチンが移動する。
そこに見つけたスイッチを押せば、部屋全体が明るくなった。
「ありがとうマッカチン、ヴィクトルは今お留守なのかな?」
「わん、わん」
その問いかけにマッカチンは部屋の奥を向いて吠える、それから桜を先導するように、その方向へ足を向けた。
ついて行った先にあったのは青いソファー、長い手足を窮屈そうに折り曲げて、この家の家主が横たわっていた。
「もしかして寝てる?」
目を瞑っているヴィクトルに、彼の愛犬が前足でちょんちょんと触れるが、小さく唸るだけで目を覚まさない。
「マッカチンのご主人様、お疲れみたいだね、起こさない方がいいのかな?でもこのままじゃ風邪引いちゃうかもしれな…い………。
なんか、気のせいかな?顔が赤いような…あと呼吸もちょっと…荒くない?」
桜はもしかして、と男の額に触れれば、やはり通常時よりも熱が高そうに感じた。
一瞬アルコールでも摂取したのかもしれないとも思ったが、それにしてはアルコール臭がしない。
「マッカチン、あなたのご主人様、既に体調を崩しちゃってたみたいだね、どうしよう…私じゃベッドに移動させられない…。」
辺りを見渡して何か掛ける物はないかと探すも、とくに見当たらず、桜は申し訳ない気持ちになりながら、男を軽く揺さぶって覚醒を促した。