ヤンデレヴィクトル氏による幸せ身代わり計画【完結済】
第2章 身代わりの話
てっきり性的に慰めればいいのかと思った桜だったが、どうやら今回は違うらしい。
顔が見えないように後ろ向きに男の膝に座らされ、彼女の肩に顔を乗せ、まるでぬいぐるみを抱くかのように、ぎゅう、ときつく抱き込んだ。
「えっと…喧嘩の内容、教えてくれる?あ、勿論言いたくないなら言わないでいいよ?あ、あとどっちが悪かったのかな?」
「なにも言いたくない」
その反応にヴィクトルの方に非があったのだろうと踏んだ桜は、逆撫でしないように、彼が落ち着くまで優しい言葉を紡いだ。
「そっかぁ、大好きな人と喧嘩して、それはとても辛かったね、もしかして泣いちゃったりした?」
桜の問いかけに「泣いてない」とぽそりと返すヴィクトルにの声に覇気はない。
「そうなの?私だったら泣いちゃうかもしれない、すごいね、よしよし、よく我慢出来ました。
今回はお互いにすれ違っちゃったけど、すぐに仲直りすれば元通りに…ううん、きっと更に絆が深まるよ。
勝生選手はそんな事言ってないかもしれないけど、もしも彼があなたを悲しませる事を言ったと仮定して、きっと彼は今それをとても後悔してると思う。
逆にあなたが彼を悲しませる事を言ったとしても、大丈夫。きっと彼はそれがあなたの本心じゃないって分かってる。
あなたは勝生選手の事をとても大切にしているんだもの、あなたが優しいこと、愛弟子の彼が一番分かってると思うな」
頭や、時折頬も撫でて大丈夫、と繰り返せば、強かった拘束はだんだんと解けていく。
そして、彼はふいに顔を上げ桜の体を反転させると、向かい合わせになる形をとった。
「…ありがとう、元気が出てきたよ」
「それならよかった。ふう、なにも知らないくせに勝手なことを言うなって怒られたらどうしようかと冷や冷やしたよ」
「ええー、まあユウリを悪く言ったら怒ってたかもしれない…」
「あはは、ぶれないねー、今回はあなたが折れてあげてほしいな、難しいかな?あなたの話を聞く限りの私の中の勝生選手のイメージって、こういう時に意地を張って、マイナス方面に考えちゃって、仲直りに時間が掛かる気がする」
「うん、そうするよ」
再度、ありがとう、と感謝を述べたヴィクトルの吹っ切れた表情に安心した桜は落ちないようにゆっくり彼の膝から降りる。