ヤンデレヴィクトル氏による幸せ身代わり計画【完結済】
第2章 身代わりの話
起きたら桜は勝手に帰っていて、ヴィクトルは多少なりともショックを受けた。
「恋人じゃなくても起きるまでいたらいいのに、そう思わないかい?マッカチン」
拗ねたように愛犬に愚痴れば、返ってきたのはくふん、と謎の鳴き声で、どういった意図を持っているのかは飼い主にもよく分からなかった。
「まあいいや、今日はユウリが遊びに来てくれる日だよマッカチン、たくさん遊んで貰おうねー」
それには元気よくわん!と鳴いたマッカチンの顔をもにもにと撫でて、ヴィクトルはやっともてなしの準備のため、動き出した。
「あ、そういやお金、今回払ってないな…次来た時に払えばいいか」
一方その頃さっさと家に帰っていた桜は風呂場の鏡にうつる自分を見て絶句していた。
胸元や腕、足に至るまであらゆる箇所に赤い花弁が散っている。
「うわ、なにこれキスマーク?キモッ」
思わず口から出たのは
「勝生選手逃げて、超逃げて」
彼の愛弟子を心配する声だった。
それから2人の関係は1週間から2週間に1度、だいたい土曜日の夜にあってsexする形に定まり、またその際、起きた時に桜がいたりいなかったりする事は、ヴィクトルにとって少し不満だったけど、付き合っている訳でも無いので縛るのは良くないと不満を伝える事はなかった。
もうすぐロシアにとって待望の夏が始まる。そんなある日の夕方の事だ。
桜のスマホに今日の朝方まで一緒にいた彼からどうしても今から会いたいと連絡が入ったのは。
次の日の事を考え、断ろうかとも思ったけれど、会いたい、来て、お願い。と連絡がひっきりなしに届くので、彼女は渋々折れた。
チャイムを押して男が出てくるのを待てば、すぐさま開いたドアから腕が伸びてきて、家の中へと入らされる。
そして間髪を置かずに桜の体に逞しい腕がまわされた。
まるで迷子の子供が母を見つけた時のように必死に抱きつくヴィクトルに、桜は刺激を与えないように優しい声で彼に話しかけた。
「どうしたの?何か嫌な事があったの?」
「ユウリと喧嘩した……慰めて」
泣きそうな声でぐりぐりと側頭部に頬を擦り付ける男の大きな背中を宥めるようにぽんぽんとゆっくり叩けば、抱き抱えられ、連れていかれたのはリビングのソファーだった。