第1章 日常
「はい、大丈夫です。」
彼女は自分の荷物を見て頷く。
「さて、じゃあ~帰りますか?高野さんはどうするの?」
「私は…まだ終電まで時間あるので、駅まで歩きます。」
「そっか、じゃあ、駅まで一緒に行こうか?」
そう言って、俺は駅の方に歩き出す。
「えっ…あっ、えっと…ふっ、福山さんもですか?」
「いや、僕は明日も早いからタクシー乗ろうかな~」
「えっ?!じゃ、ここでーーー」
そう言って、キョロキョロとタクシーを探す彼女。
「何言ってるの?こんな時間に女の子が一人でなんてダメだよ。せめて駅まではさ!すぐ近くだし、それに駅の方がタクシーいるから、ね?」
遠慮してるのか、ガードが堅いのか。
「本当は家まで送ってあげたいくらいだけど?」
「いや!それは、大丈夫です!」
いや!って…そんなハッキリ言わなくても(笑)
しっかりした子だし、遠慮もあるんだろうけど、やっぱりガードも堅いな。
39って言ってたし、彼氏いるからしっかり警戒してるのかな?
聞いてなかったけど、結婚しててもおかしくないよな~。
チラッとカバンを持つ左手を見るけど…薬指に指輪はない。
そんなこと考えているとーーー
「あっ!!」
彼女が突然、声をあげた。
「何?どうしたの?」
「お金!」
「お金?忘れ物?」
「違います!飲み会の!」
立ち止まり、今にも引き返しそうな彼女。
「あ~、それなら大丈夫だよ。」
「えっ?」
あんまり言いたくなかったけど…
「ちゃんとお金置いてきたから。」
多めにね。
「えっ!じゃあ、私も払います!」
やっぱりね~この子なら絶対そう言うと思った。
「いいよ~連れ出したのは僕だし。」
「そんなのダメです!」
歩き出した僕の腕を両手でガッチリ掴んで引き留める。
ドキーーー
「いくら置いてきたんですか?半分払います!じゃないと…」
「じゃないと?」
「お店に戻って、払ってきます。」
パッと俺の腕を離して本当に戻りそうな彼女に観念した。
「1万円です。」
本当はもっと。
「じゃあ…」
そう言いながら、カバンから財布を取り出す。
「はい、五千円です。」
「いいよ~だって、そんなにかからないでしょ?僕が勝手に置いてきただけだし。」
「でも…」
「元々、仕事関係や後輩もいたから払うつもりだったし。」