第1章 日常
福山side
「さて…席に戻りましょうか。」
そう言って、俺の前を通り過ぎようとした彼女の腕を掴んだ。
ビックリした顔で掴まれた腕から俺に視線を移す彼女。
自分でも驚くくらい無意識だった。
「そうだ!このまま帰っちゃおうか?」
「はい?」
「僕も明日も早いし、そろそろ帰ろうと思ってたから。」
「でも…盛り上がってるみたいだし、シラケさせちゃうのはちょっと…」
「大丈夫だよ。僕に任せて!」
「えっ、大丈夫って…」
心配そうな彼女を遮ってーーー
「高野さんはこのままお店の外で待ってて。僕だけ戻って、適当に理由つけて荷物持って出るから!」
何か言いたげな彼女を置いて、俺は席に戻った。
「いやーゴメン、ゴメン。僕さ~明日も早いからそろそろ帰るわ。」
「えーっ、そうなんっすかぁ?」
「潤さん、もう帰るんですか?」
一緒に来ていたツレが次々に口を開く。
「まぁまぁまぁ、僕がいないと寂しくなるのはわかるけどさ~悪いね!」
ひと笑い取って荷物を手に取る。
「あっ!それからさ~高野さんの荷物ある?」
「えっ?高野さんの…ですか?」
「なんかトイレの前で会ったんだけど、少し飲み過ぎたみたいで外に出てったからさ~」
「えーっ、そんな高野さんが珍しい…大丈夫かな?私、様子見てきます!」
「あっ!だっ…大丈夫そうだったよ。荷物頼まれてさ~そのままタクシー乗って帰るって言ってたよ。」
「えっ…でも。。。」
「ほら!みんな楽しんでるとこ悪いって気にしてたし、逆に気遣わせちゃうと思うんだよね!」
さすが俺!うまい言い訳!
うん、嘘ではないし大丈夫だよね?
「だからさ、荷物も僕に任せて、若い子たちはまだまだ楽しんで!ねっ?」
そう言って俺は彼女の荷物を手に取った。
「あっ!そうだ。」
俺はゴソゴソと財布を出してーーー
「とりあえず…これ、二人分ね。足りなかったら、あとで請求して。」
テーブルにお金を置いて、その場を後にした。
足早に店の外に出ると、彼女は俺を見つけると歩み寄ってきた。
「お待たせ。」
「いえ…それより大丈夫でしたか?」
「うん!大丈夫、大丈夫。はい、荷物。」
差し出した荷物を受け取るとーーー
「ありがとうございます…」
「忘れ物はない?」