第1章 日常
「私たちの分は関係ないじゃないですか。」
「だけど、強引に相席したのはこっちだし。」
押し問答が続き、ジッとこっちを見上げる彼女。
「高野さんたちだけなら、こんなにかからなかっただろうし。」
「いいんです!福山さんが後輩にご馳走するつもりだったなら、私もあの中では1番上なので払います!」
「ぷっ…」
すごい剣幕に思わず笑ってしまった。
「わかったよ。じゃ、遠慮なく。」
「はい…!」
彼女の手から五千円を受け取ると、初めて見る彼女の笑顔に心が奪われそうになる。
「高野さんってマジメ?笑」
「そんなことないですよ。」
「ホントに~?」
「ふふっ、ホントですよ。」
駅までの道、飲み会の時よりずっと楽しい時間だった。
それはやっと本当の彼女の姿に触れた気がしたからーーー
でも、駅までの時間は本当に短くて。
楽しい時間はあっという間で。。。
「それじゃ。。。」
彼女はペコリと頭を下げた。
「あぁ…うん、じゃあ。。。」
またね…とも言えずーーー
あっさり改札に向かう彼女の後ろ姿を見送り、俺もタクシーに乗り込む。
久々に仕事関係以外の人と知り合ったなぁ。
高野さん…
連絡先聞いた方が良かったかな?
でも、あの子のことだから一瞬困った顔してなかなか教えてくれないか(笑)
もう逢うこともないだろうと思いながらも、そんなことを考えてしまった。