第12章 安土で(5)
*三成目線
勢いで部屋の前まで来たけれど
私はすぐ後悔した。
部屋は静か……
ではなくて、
押し殺したような
泣き声が聞こえてきた。
やっぱり戻ってしまおうかと、
そう思った。
泣いている女性に手拭い一つ
渡せなかった。
そしてそれを言い訳にして
声すらかけられなかった自分が
今更のこのこ現れて
何をいえばいいのだろうか。
でも、できるなら。
自分が舞様のお側に居て
支えたい、ような気がして
「泣いている女性の部屋に
上がり込むのは良くないだろう」
そう理由付けをして
舞様が出てくるまで
待つことにした。
(それまでに、
舞様に何とお声掛けをするか
そしてこの変な心持ちは何なのか
考えましょう。)
襖の前でずっと座って、
どれ位経ったのだろうか。
廊下はもう暗い。
(なにも決まらないし、
答えも出そうにないですね…)
部屋まで聞こえないように
小さく溜息をつきかけたとき、
背を預けていた襖が
スッとなくなって、
温かい何かに背が触れたーーー。