第7章 安土で(1)
突然の訪問に吃驚して思わず
棘のある言い方でそう尋ねると……
家康「ほら、政宗さん。怒ってますよ。
だから言ったじゃないですか。」
政宗「知るかそんなの。
特に用があるわけじゃない。
強いて言えば…
お前を見に来たってとこかな。」
そう言って政宗さんは
顔を近づけてくる。
(私の様子とかじゃなくて
私をって…どういう意味…?)
「近いですっ…
やめてください、政宗さん。」
思わず警戒して顔を背けて言うと、
政宗「政宗でいい。
それと敬語もなしな。」
「いきなりそんなできませんよ…」
政宗「ならこのままだ。」
そう言ってニヤッと笑い、
更に顔を近づけてくる政宗さん…
政宗に耐えかねて私はしぶしぶ頷いた。
「わかりま……わ、わかった…」
政宗「良し。」
ようやく政宗が離れてくれて
私はほっと息をつく。
「あの…それで…家康さんは……」
家康「御館様に言われただけ。
手首見せて。」
家康さんはぶっきらぼうにそう言うと
私の目の前に腰を下ろした。
「手首…?」
言われた意味がわからず
とりあえず両手首を出すと、
右手首に微かに赤い
握ったような痕がついていた。
(あ…あの時、信長様に手首を
掴まれた時の……)
家康「うっ血はしてなさそうだな。
とりあえずこれを塗っといて。
軟膏だから。」
そう言って家康さんは
軟膏の入った小さな壺を
私にくれた。
「ありがとうございます…」
家康「っ…だから別に、
御館様に言われてきただけだから。
俺の用は済んだからこれで。」
そう言って家康さんはさっさと
部屋を出ていってしまう。
…政宗と2人になってしまって、
沈黙が訪れた。